作ったのに使われないシステムになる原因 ── 現場が紙とExcelに戻る5つの理由と、8週間のどこで防ぐか
2026.10.15 公開 / 2026.10.25 更新
「前に作ったシステムが、いま誰も使っていなくて」。相談の場で、開発の話に入る前にこう切り出されることがあります。
動いてはいるのです。サーバーは生きていて、ログインもできる。ただ、現場はいつの間にか紙の帳票とExcelに戻っていて、システムに入っているのは最初の2か月分だけ。開発費は払い終えていて、月額の保守費だけがまだ出ている。
先に書いておきます。使われないなら、作らないほうがいい。そして、使われなくなる原因のほとんどは、作りの良し悪しより手前にあります。この記事では、その原因を5つに分けて、私たちが8週間のどこで防いでいるかを書きます。
原因1 ── 現場の入力が増えただけ
いちばん多いと考えているのがこれです。
架空の想定例です。現場の作業員が紙の日報を書き、翌朝に事務の人がExcelに打ち込んでいる会社があるとします。転記をなくすためにシステムを作り、現場が直接スマホから入力する形にした。事務の転記は消えました。ところが現場から見ると、いままで3分で書けていた紙が、スマホで項目を12個選ぶ作業に変わっただけです。
入力する人にとって、楽になったものが何もない。この状態で「入力してください」と言い続けても、繁忙期に1回飛ばした日から戻りません。
防ぐのは、画面構成のラフを出すW2です。ラフを見せる相手に、入力する人を必ず入れます。管理する側だけで画面を決めると、入力欄は増える一方です。「この項目は誰が何に使いますか」に答えられない欄は、この段階で消します。紙で3分なら、画面でも3分以内。目安はそれだけです。
原因2 ── 紙が残って、二重になった
システムを入れても、紙の帳票を廃止する決定がされていない。これは意外なほど多いと思っています。
取引先に渡す控えが紙だから。監査で紙の原本を求められるから。上長が紙で見たいと言うから。結果は同じで、現場は紙に書いてから画面にも打つことになります。原因1と合わさると、入力の手間が純粋に2倍です。
二重になった仕事は、片方が必ず止まります。止まるのは新しいほうです。
防ぐのはW1のヒアリングで、いま使っている帳票を全部出してもらいます。1枚ずつ、「これはシステムに置き換わるのか、残るのか、印刷して出すのか」を決めます。残る帳票があるなら、画面から印刷できるようにして、手書きの工程をなくす。ここで決めきれない帳票が3枚以上あるなら、まだ作る時期ではないと申し上げることもあります。印刷して出す帳票を、今の書式のまま再現するか変えるかは帳票・PDF出力をどう作るかに書きました。
原因3 ── 例外の処理が、画面にない
通常の流れは画面で回る。ただ、月に数回ある例外だけが入力できない。
単価が特別な取引先。締め日を過ぎてから来た修正。キャンセルの一部返金。こういう例外を「そのときはExcelで」と逃がすと、最初は月に数件だったExcelの行が、半年後には全件になっています。例外を扱えないシステムは、例外の起きた瞬間から信用されなくなるからです。
ただ、例外を全部画面にすると、8週間には収まりません。私たちは例外を2種類に分けています。頻度が月に1回以上あるものは、画面に入れます。年に数回のものは、画面に「備考」と「手動で修正した」という印を付けられるようにして、あとで拾えるようにしておく。例外を処理できなくても、例外があったことが記録に残っていれば、Excelに戻る理由はなくなります。
例外を見つけるための質問は、W1で聞くものとして発注したあと、自分たちは何をするのかに並べました。「締め日を過ぎてから修正が来たとき、いまはどうしていますか」が、その代表です。
原因4 ── 管理者しか、得をしない
原因1と似ていますが、別のものです。原因1は入力の手間の話で、こちらは見返りの話です。
集計が楽になる。進捗が一覧で見える。これは全部、管理する側の利益です。入力している現場の人は、その一覧を見ません。自分が打った数字が、自分のところに何の形でも返ってこない。これでは、入力は「上のための作業」になります。
防ぎ方は単純で、入力する人が毎日開きたくなる画面を、最初の画面数の中に1つ入れます。自分の担当分だけが並ぶ一覧。昨日入れた分の確認。今日やることのリスト。ライトプランの10画面のうち1画面をこれに使っても、残り9画面で業務は回ります。管理者向けの集計画面を1つ減らしてでも、ここは入れたほうがいいと考えています。
自分たちのことを書くと、私たちが運用している研修事業の業務コンソールは、作った人間がそのまま使っています。面倒な操作は、その日のうちに自分に返ってきます。この距離の近さはお客様のシステムでは作れないので、代わりにW3からW6の確認に入力する人にも入っていただくようお願いしています。
原因5 ── リリース日に、説明がない
月曜の朝、現場に「今日からこれを使ってください」というメールとURLだけが届く。
これで使い始められる人は、ほとんどいません。ログインの仕方が分からない、パスワードがどこにあるか分からない、最初に何を押せばいいか分からない。最初の1週間で聞ける相手がいないと、その週のうちに紙に戻ります。使われないシステムの、最後のひと押しになりやすいのがここです。
私たちがW8に導入時のレクチャーを入れているのは、このためです。マニュアルを渡して終わりではなく、使う人全員に実際の操作を一通りやってもらう時間を取ります。週ごとの中身は2ヶ月で作れるもの、作れないものに書いたので、ここでは繰り返しません。
レクチャーの日は、現場の忙しくない曜日に合わせます。月末や締め日の直後は避けます。地味ですが、効きます。
5つの原因を、8週間のどこで防ぐか
週で並べ直します。
| 原因 | 防ぐ時期 | 何をするか |
|---|---|---|
| 1. 入力が増えただけ | W2 画面ラフ | 入力する人にラフを見せ、使い道のない欄を消す |
| 2. 紙と二重 | W1 ヒアリング | 帳票を全部出し、廃止・残す・印刷に振り分ける |
| 3. 例外が画面にない | W1〜W2 | 月1回以上の例外は画面に、それ以外は記録だけ残す |
| 4. 管理者しか得をしない | W2 画面数の配分 | 入力する人が毎日開く画面を1つ入れる |
| 5. リリース日に説明がない | W8 レクチャー | 使う人全員と、実際の操作を一通りやる |
5つのうち4つはW1とW2に集まっています。設計の2週間に発注側の時間を多めにお願いしているのは、この表が理由です。
W3からW6の週1回の確認では、動く画面を入力する人に触ってもらいます。管理者だけが見て「いいですね」と言った画面は、現場に出した瞬間に評価が変わることがあります。触ってもらう相手を間違えないことが、この4週間で気を付けていることです。
リリースしてからは、登録件数と業務の実数を比べます。週に50件の注文があるのに登録が20件なら、30件はどこかに紙かExcelで残っていて、その差が5つの原因のどれかを指しています。リリース後の12ヶ月を月額での改善に充てているのは、この差を埋める作業がリリース後にしかできないからです。月額の中身は運用・保守の中身を項目ごとにに分けて書きました。
作らないほうがいい場合
最後に、私たちに頼まなくていい場合を書いておきます。
現場が紙とExcelで困っていないなら、作らないでください。困っているのが管理側だけなら、原因1と4は最初から避けられません。困っている人が入力する人でもある、という状態になってから作ったほうが、同じ費用で使われるものになります。Excelのままでいい状態の見分け方はExcelでの管理は、どこまでが限界かに書きました。
もうひとつ、5つの原因はどれも8週間の中で手を打てますが、「使うと決める」ことだけは私たちにはできません。紙を廃止する決定、レクチャーに現場全員を出す決定、繁忙期でも入力を続ける決定。これは御社の中で決めていただくことで、決めきれないまま作り始めると、5つのうちどれかに当たります。
使われないシステムは、開発費を払った側にも、作った側にも、いいことがありません。作る前の60分で、その可能性が高いと感じたら、そのままお伝えします。
よくあるご質問
使われなくなったシステムは、直せば使われるようになりますか?
原因によります。例外処理が画面にない、入力項目が多すぎる、といった作りの問題なら、画面を直せば戻ることが多いです。ただ、紙の帳票が残っていて二重になっている場合や、入力する人に何も返っていない場合は、画面を直すより先に運用のほうを変える必要があります。どちらなのかは、現場の人が実際にどこで手を止めているかを見れば分かります。直す前に、まず1日そばで見ることをお願いしています。
現場の反発が強いのですが、それでも作るべきですか?
反発の中身を聞いてからです。「いまの紙で困っていない」という反発なら、作らないほうがいい。困っていない人に新しい入力を頼んでも続きません。「入力が増えるだけで自分には何も返ってこない」という反発なら、設計の問題なので、入力した人が使える画面を最初の8週間に入れます。反発そのものは悪い材料ではなく、誰が損をする設計になっているかを教えてくれる情報だと考えています。
使われるかどうかは、いつ分かりますか?
リリースから4週間ほどで、だいたい見えます。見るのは満足度ではなく、登録件数と、その件数が業務の実数と合っているかです。週に50件の注文があるのに登録が20件なら、残りの30件はどこかに紙かExcelで残っています。この差が縮まらないなら、原因のどれかに当たっています。私たちはリリース後の12ヶ月を月額での改善に充てているので、この差をもとに最初の修正を決めます。
作りたいものを、
ひとつだけ持ってきてください。
初回お打ち合わせは60分・オンライン可。画面構成のラフとお見積りまで費用はいただきません。
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